2006.05.14 UpDate
「ロジャーとジェームス」
フィリピン人の若者と話していると、「イャップ!」としばしば耳にする。「イャップ!」とはYES、YEAHの意味でフィリピンで今、流行っているらしい。
ある日そんな彼らを真似て、自分も「イャップ!」と使っていたところ若者の一人が聞いてきた。
「ドラゴン、ロジャー・ヤップとジェームス・ヤップを知っているか?」
フィリピンではメジャーなスポーツであるバスケットボール。
ロジャーとジェームスはそのバスケットボールのプレーヤーで、二人は兄弟であるらしかった。
「その2人はグットプレーヤーなのかい?」と俺が聞くと、その若者は笑顔で「ヤップ!!」と答えた。
ロジャー・ヤップ。28歳。物心付いた頃からバスケットボールを始め、中学、高校、大学と「天才」の名をほしいままにし、現在もプロリーグで活躍中。フィリピンの若者の憧れの的となっている。
ジェームス・ヤップ。25歳。兄の影響でバスケットボールを始めるも、背が低いことを理由に、試合の機会には恵まれなかったが、それを糧に、練習を積み重ねる。現在では兄とは対照に「努力の男」としてプロリーグで活躍中。
二人は今では良きライバルだが、実はとても仲が悪かった。兄と何かと比較される弟。弟に何をやっても追いつかれる兄。
そしてある日の試合が決定打となった。
ロジャーの所属するチームと、ジェームスの所属するチームが戦っていた時のことだ。
試合は90対87の接戦。残り時間は僅か。ロジャーのチームがリード。
二人共、意地でも負けるわけにはいかなかった。特にジェームスは、その試合を恋人が観戦していることを知っていたのだから。そして愛の力かジェームスのチームを逆転。
ロジャーは点を取り返そうと躍起になる。ふと、観客席にジェームスの恋人がいるのを発見した彼は、これはチャンスだと思い、ジェームスに囁く。
「お前の恋人がみているぞ。」
「あぁ、知っているさ。だから負けるわけにはいかないんだ。」と弟。
「ふっ」と笑う兄。そして続けて、
「負けてるさ、お前は。既に。」
「What‘s?」と弟。
「お前の恋人のゴールに、何度俺がダンクを決めたと思ってる。まさかバスケに関してだけ、俺が天才だとでも思っていたのか?」
「兄貴、まさか……。」
「一生俺のお下がりで楽しんでいるがいいさ。」
「!!!!」
ジェームスは兄を殴り退場。ゲームはロジャーのチームの勝利に終わった。ジェームスの恋人が微かに微笑んでいたかのように見えた。
もちろんこのニュースは翌日の新聞、テレビのスポーツコーナーを賑わせた。
新聞の見出しはこうだ。
『ジェームスのオヤッブ(恋人)、ロジャーのダンクに歓喜の「イャップ!!」』
ジェームス・ヤップは言う。
「初めて自分だけのボール、自分だけのゴールを手に入れたと思っていました。でも、そのボールは兄貴のもので、一人でプレーしているつもりが、ONE on ONEをしていたなんて……。」
後にジェームス・ヤップの恋人が語ったところ、そのような事実は一切ないということで、まさに「バスケの天才」の作戦にジェームスは完敗していたことが判明する。
「ドラゴン!クムスタカ?(元気かい?)」
俺はそんなロジャーとジェームスの関係を勝手に想像して、
笑みを浮かべながら答える。
「イャップ!!」
(執筆:千葉竜也)